マンガ『人狼ゲーム』全三巻原作 川上亮
漫画 小独活
竹書房バンブーコミックス
デスゲームとしての「人狼ゲーム」を強いられる系の最初の小説の最初のマンガ化作品(じゃないかと思う)。プレイヤーに選ばれたのは10人の同じ高校の男女で男5人、女5人。多少、この後の作品と違うかもと言うのは運営側がこの10人のプレイヤーを選ぶ時点で誰が誰に怨恨を抱いているというのを全て把握した上で選び、それを各プレイヤーに開示している点があげられる。「あなたが憎むべき相手はあの人です」という事が個別にモニターで告げられる。ゲームを白熱させる為にたいへん効果的だが、それは運営側が神すぎるだろう。一億の金が動くゲームだから(逆に言えば一億をプレイヤーにペイしても成り立つゲームだから)少人数で運営しているであろう運営側がそれだけの情報を網羅把握できる位置にあるという事はあるかもしれない。例えば待機電源が入ってるPCから画像をモニタリングできるみたいなCIAなみの事が出来るなら、逆に怨恨の輪を意図的に作っていく事も考えられないではないが。ただ、ゲーム周期はゲーム流れから一週間に一回くらいと推定される。一週間に一回同一地域で10人近くの人間を消費するなら1年間に500人弱。延々と続けてはいられない。多分、それはそんなに都合よくいかないよなあ、という事で、この怨恨関係の導入は破棄されたのだろう。
10人の中で人狼が2人、村人が8人、村人のうち1人が預言者という構成。夜間跋扈する人狼から部屋に鍵を掛けて他者を守る「騎士」は導入されていない。「騎士」まで入れてベーシックな「人狼ゲーム」かなと思ってるが、これが導入されない事でゲーム流れがシンプルになって格段に読みやすくなっている。入門編として最適。
そして、ラスト。あー、そーなの、そういう事なの、というのはちょっと目から鱗が落ちてよかった。
物語の中で優柔不断で泣いてるばかりだった主人公が、爪や牙を研ぐような人狼に対抗できるような存在に成長するのだけど、これは嫌な成長譚だよなあ。『まどマギ』で、魔法少女が魔女になっちゃうみたいなものかもしれない。あれは主役サイドの話ではないけど。
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マンガ『リエゾン①②③』原作 竹村優作
漫画 ヨンチャン
講談社モーニングKC
発刊途中で現在は5巻まで出てるが読んだのは3巻まで。
副題に「こどものこころ診療所」とあり、舞台は、児童精神科がメイン診療の病院。
病んだ子供が毎回出てくるが、お涙頂戴的なすごく「可哀想」な子供はあまり出てこない。子供にはその幼さから自分が病気であったり、他人と異なるという自覚があまり無い。どちらかと言うとそれで苦しむのは保護者側である。だから起こっている事象の問題度の高さの割にはマンガ内容はカラっとしている。
主人公は大人になってから、自分が発達障害であると診断された医者のインターン。彼女は患者に向きあいながらも、患者とリンクする事で今までの自分(=発達障害)と向きあっていく事になる。
なんつか、講談社が凄いのは「発達障害」が大きな問題になったら、それに対するアンサーの物語をマンガに仕上げてすぐ発表していく、その目利きと機動力にある。社会に必要な物をマンガで補填する、社会に対してそういう貢献の仕方もあるのだなあ。
マンガ『治癒魔法の間違った使い方⑦⑧』原作 くろかた
漫画 久我山レキ
キャラクター原案 KeG
角川コミックスエース
1~3巻が導入部、基本設定周知編。
4~6巻頭(1/3くらい)が学園都市編。
6巻その後~8巻がネクロマンサー編。
このマンガに関しては設定の緻密さが面白さの核と思っているので、ネクロマンサー編はそれほど私のお気に召さなかった。学園都市編と比べて、事件が展開される場所が割と何の変哲もない村であるからだ。水戸黄門一行の旅の目的地とかでなくオマケに成敗される小さなエピソード的なランクの話。ただ、そこでは場所の設定は適当で杜撰だが(村に善人しかいず人としても場所としても個性がない)、対峙する魔物の設定がちょっと予想外で上手く練ってあった。プラスアルファ、魔王やドラゴンや昔の勇者の話を伏線として嵌め込んでいくのが中々テクニカルである(嵌めこんでる時点での面白さは少ないが地雷みたいな物だから伏線回帰で爆発する瞬間を楽しみにしよう)。結果、どうにかトントンになったかならないか。
主人公側が圧倒的な劣勢にも関わらず、そして、悪役が最後の最後で起死回生のチャンスがあったのに降参してしまう等に関しては「あらら?」と思うのだが。
このエピソードの結果として旅のお伴が1人増える。
主人公、衛兵、獣人の幼女、緑熊の魔獣、に加わるのはフクロウに姿を変えて同行する魔女。
獣人の幼女にしてもそうだが、同行する魔女との間に深まりそうな恋愛線はなく、オラオラ・ハーレム旅行にならないのは読んでて気が楽。まあ、オラオラ・ハーレム旅行にするには、衛兵とのホモ関係、熊との獣姦もこなさなければいけないから、それは物語として面倒な荷物であろう。もういいよ、異世界に行ったからと言って童貞くんがいきなりオラオラちんことかにならなくても。そういうの望んでいる作者がいるにしてもリアルじゃなさすぎる(異世界冒険譚にそこそこリアルじゃないとという観念をぶち込むのがそもそもの間違いなのか)。
マンガ『俺は全てを【パリイ】する①』原作 鍋敷・カワグチ
漫画 KRSG
アース・スター エンターテイメント
私は基本、ゲームをやらないので知らないのだが何でも【パリイ】という技はゲーム界ではメジャーな技で、語感が表わすように、初期の大した事ない技らしい。うん、「パリイ」という重みの無い語感が素晴らしい。ともかく、物に出来るか出来ないかは分からないけど、一日1000回やって、それを10年続けました、みたいな人なのだ、主人公が。その結果、独学で物凄い力を身に付けているのだが、そんなのは初歩の初歩の技だから、みな出来て当たり前だろうという自己評価が低い男が主人公。
例えば、これが現実世界なら『俺はジャブだけでボクシング全階級制覇』『俺は送りバントだけで出塁率№1』『俺は小指の大きさのチンコで歌舞伎町ホスト№1』みたいなもんだろう。ジャブだけで一試合勝ってしまう奴がいたら怖いよ。おそらく傍目には魔法かインチキみたいに見えるだろう。
このマンガの主人公は、超スキルの保有を自覚しないまま、冒険者の下請け仕事(村のどぶ浚い、雑草とり)をして、暮らしている。或る日、見知らぬ冒険者が牛(ミノタウロス)に襲われているのを無自覚にただの牛と勘違いして倒した事から、自分には到底できないと思っていた冒険者の冒険の数々に巻き込まれる事になる。
これは原作が「小説家になろう」サイトに載ったもので、いつもの通り未読なのだけど、小説である利点が凄く強く出た話だ。おそらく、小説は一人称で書かれていると思う。仮に三人称で書かれているとしても、彼の心理表現はかなり綿密に処理されているだろう。すると、小説を読んでいる人は彼と一体化してしまう。彼の考え方に自然、同調してしまう。彼の取る行動が嘘くさくても、彼になりきってしまっているので、否定できる客観性を失ってしまう。
マンガはそうはいかない。心理描写と共に、客観的に何が起きているかを絵で表現しなければいけない。つまり、主人公に強く共感しながらも、主人公を俯瞰で見る感覚になる。前にレビューであげた『たとえばラストダンジョン前の村の少年が序盤の街で暮らすような物語』も同パターンのマンガだが、これは主人公が徹底的に気が付かない事をコメディ仕立てにする事で、彼が超有能である事に無自覚な事のリアリティーのなさを乗り越えていた。リアリティーのない部分をドリフのコントのようにお笑いに置き換えたと言ってもいい。
その点、『俺は全てを【パリイ】する』はその面があまり上手く機能していない。前述の物語(たとえば~)同様、主人公が徹底的に気が付かない事を面白おかしく描写する事でコメディー化しようという意識は旺盛である。但し、前述の物語は主人公の設定が既に伝説級であり、普通の人の中に『ドラゴン・ボール』の孫悟空や『ドクター・スランプ』のアラレちゃんが紛れてるような、最初からお笑い全開の設定なのだ。もう、笑い一直線だ。逆に『パリイ』の場合は、主人公が怪物級である事はあっても、リアルなスケールで話は進むし、彼が自分の技術に対してリアルに低い評価であったりするのは、読んでてとても辛さを感じてしまう部分なのだ。そして、そのリアルなスケールで進む話の中で、自分の有能に気が付けない主人公はどこかおかしく見えてしまう。いい意味で技術的に有能なのだけど、悪い意味で自己評価の軸がおかしく社会性がない。お前、ちゃんとコミュニケーション取れよ、バカヤロー。
という事で、まあ、やはり、主人公にはいい目を見てほしい。そういった普通の感覚に行きつくまではまだまだっぽい。ともかく、次巻に期待する。期待せいでか。
マンガ『たとえばラストダンジョン前の村の少年が序盤の街で暮らすような物語②』原作 サトウとシオ
漫画 臥待始
キャラクター原案 和狸ナオ
ガンガンコミックスオンライン
この巻までで、「序盤の街(王都)」の魔王騒ぎが決着する。
基本、そこそこ話の整ったギャグマンガという体裁だと思うのだが、割とキャラがみんなうるさくてガチャガチャしてる。この雰囲気をそのまま引き継いでるアニメの再現度は偉い。個人的にはこのうるささはあまり好まないではあるのだが。
つーか、ロイドくんが勘違いしたままと言う状態が持続する事で、全てのギャグが回っているのだが、誰かちゃんと教えてやれよ。いやまあ、教えるとギャグが成立しなくなるのかもしれないし、話の展開の速さによって、ロイドくんに真実を教える時間を与えずに畳みかけるという調整もされていると思うけど、一人くらい、彼に真実を教えようとする、普通の心の持ち主がいてもいいと思う。
そこが今一つ、自分が物語に傾倒できない理由かもしれない。
マンガ『たとえばラストダンジョン前の村の少年が序盤の街で暮らすような物語①』原作 サトウとシオ
漫画 臥待始
キャラクター原案 和狸ナオ
ガンガンコミックスオンライン
わざとだろうけど、タイトル長いな。
アニメ見てブクオフの底値で一巻が出てたので買って読んだ。
アニメ、ザッピングを機会に見出したので、そのザッピング前の見てない部分がマンガで120ページもあってけっこう驚いた。
ベルト姫セレンのベルト外す前のエピソードがあって、ふむふむ。単にじゃまくさいだけのキャラではないのね。
しかし、これはアレだな。
『スケバン刑事 少女鉄仮面伝説』を思いださせるな。
強いけど情緒不安定で夢見がちな女の子は好き。これで、もうちょっと「姫様」なりに慎み深さのあるキャラだったら、一推しなのに。とは言っても、特にお気にはいないのだが。
村長がマリアさんに必要以上に辛く当たってる気がする。常識人としては(常識人なのだよ)そこはちょっと読んでて心苦しく思う。まあ、おそらく可愛げなちょっかいなのだろうけど。
マンガ『乙女高校ボクシング部(第一部) 全三巻』沢田ひろふみ
講談社KCDX
高校デビュー目指して、新共学高校に入ったら、男子が少なすぎて逆にアウェイに。逃げ込んだ先のボクシング部で4人のヘタレは少しずつボクシングを身に付ける、1巻目、主人公、やられて、やられて、やられる。強い筈がないのだが、折り紙付きの弱者である。そして、1巻のラストにやられた地元の有名人のおかげで、社会的にもズタズタになる。
2巻目、特訓、そして一巻でボコボコにやられた相手とスパーリング。ラストで希望の光。
3巻目。スパーリングの続き、そして優勢のままスパークリング終了。
主人公達が他人の目以上に自分自身から自分達を開放してやる様がグー。
ヒエラルキーの低い主人公達を見下していた女子が、見直したりはしないんだろうけど、その辺どうなっているのかというクスグリはちょっとだけでも欲しかった。
3巻目は+ボクシング部5人目の経験者女子ボクサーがボクシングを親に認めさせるエピソード。この娘は普通にとっても美人なのだけど、都合のいいキャラとして、その場に設置されてるみたいで、あまり好きになれない。
どうも3巻で終了らしい。
最後に「第一部 完」のロゴ。うーん。
絵が雑い。やはり、そこがいかんかったのかのう。
第二部、出せるものならちゃんと出てほしいな。
マンガ『異世界からの企業進出!?』全三巻原作 七士七海
漫画 鵜山はじめ
講談社ヤンマガKC
最近、異世界もののマンガにはまって、かなり手を出している。
その中で、これは大当たり。
なのに三巻で終わってしまって、三巻の帯の「大団円」という単語にドコンと奈落に突き落とされた。「お、終わりかよお」
主人公は元社畜。あ、いかん。これだけで好きだわ。
社畜の主人公がブラック企業を売り言葉に買い言葉で辞めてニートになって、次の就職先が魔界進出企業MAOコーポレーション。ここで主人公の人事勧誘相手であるダークエルフの姉ちゃんがむっちゃ美人で、ダークエルフなのに眼鏡にスーツって、おいおいちょっとなビジュアルにやられる。概してビジュアルいいよなあ。OJTの専任教官になる鬼王と不死王のビジュアルもムチャクチャ伝わってくるし。
で、あれよあれよという間に孤立して仕事の片寄せを食らってしまう誠実かつ不器用な主人公。彼本人と読者だけが知る、でも、実力はピカイチという事実が歯痒いけどおもろい。なんだかんだでボッチだった主人公に仲間も出来た頃、いけ好かないライバルが登場。力押しの主人公の裏を張るように、ライバルは魔力押しで女子二人とパーティーを組むハーレム状態、そして、間違えた正義感で主人公に噛みついてくる。こんなん嫌いになるしかにないじゃんって正当な裏目。いるいる、こういう正しいっぽい事言って全体を停滞させるようなバカ。で、主人公はとっても悪い顔で彼を迎え撃つ。
もともと原作の物語の骨子がしっかりしていて、異世界物にありがちな、「その辺、異世界だから何となく異世界な感じでヨロシク」な部分が極力排除されていて、設定などが緻密である。で、そういう設定をマンガにする事でかなり分かりやすく説明している。そういう部分も含めてマンガとしてかなり上手い。キャラはみなそれぞれちゃんとそれぞれのベシャリをしそうだし、そういう身近に感じるキャラだから、喜怒哀楽もちゃんと伝わって来る。
3巻のダークエルフの激昂と自分自身の恋愛感情を明確に自覚する場面なんか無茶苦茶ドラマチックで盛り上がった。
なので、読み終わって、強烈な「ロス」に見舞われて、久しぶりに本屋でこちらも全3巻の原作小説を買って、うんうん三日ぐらいでダーっと読み終わってしまった。まだ、途中じゃん。あー、マンガ第二部みたいな形でひょっこり続かんかなあ。
うわあ、安永航一郎ってまだ現役なのかあ。
しかもデビューから30年くらい経ってるのに下品に磨きがかかってる。
磨くなそんなもん。
安永航一郎を見てると、下品とエロは違うってのがよく分かる。
安永航一郎は下品だが決してエロくはない。
「田中」の苗字違いで異世界転生した冴えない田中が
授かったチート能力で、どうにか居場所を見つけて、
お世話になった人の問題を解決するまで。
つー書き方だと、田中が魅力的に見えてしまうが、
田中の魅力はチート能力以外の魅力がない所である。
カラーイラストで描かれる表紙の田中はボソボソした感じで
肌の色は死人のように薄茶色い。
悪役にまでいけないザコキャラみたいで、真剣に描いてる感がない。
チート能力も効率の良い使い方とかせず、割と出たとこ勝負だ。
そして、童貞で女に持てる要素がなく、外見不審者。
彼がやむにやまれず冒険に足を突っ込むが、基本、
そんなにやる気はない。生き方が漂うようだ。
でも、決めた方向には歩みは遅くても進むし、
ラッキースケベは享受する(視姦レベルまで)。
そして、田中の一番好きなところは、
自己評価が無茶苦茶低い所にある。
モテる筈がない。基本、嫌われこそすれ好かれる筈がない。
ル・サンチマンのように性根に沁み込んでて、こんな奴は大好きだ。
こいつは俺っす。俺すぎる。チート能力はないけど。
だから、このマンガは好き。
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