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『線は、僕を描く』ユナイテッドシネマ豊洲8

◆『線は、僕を描く』ユナイテッドシネマ豊洲8

▲薔薇よりも美しい。

五つ星評価で【★★★ちょっと複雑な終焉を感じる】
もう一回見たいと思わせる力作。
題材である水墨画を映画内でもう一回見直したい。
今まで水墨画を題材にした映画は見た事がなかった。「書道」や「芸術」もそうだが、創作(フィクション)の題材として描く時、一流の物を一流に見えるよう表現しなければいけない。そこに作品としての難易度が上がる。油絵や彫刻などについては『Dr.コトー診療所』の山田貴敏が『マッシュ』『風のマリオ』などのマンガを描いている。もう、普通じゃない。マンガの中の芸術なのに魂が震える。それはマンガの技能によりこう描かれた物が芸術であるべきだという実物が見えない上での補完となる指摘がなされて納得をする、下世話に言えば技法に乗せられていると言っていい。「書道」に関しては、河合克敏が『とめはねっ!』というマンガを描いている。ここで、河合は名書をコピーでそのまま載せた。あー、そうね、それは間違えてないわ。ただ、そういうのは震えない。茶は味覚や嗅覚を映画で味わえないので、所作が正しければ「良い茶」に見える。華道は『花戦さ』という映画があった。あれはドーンと来て、バーンとやられて、勢いで騙された。本当に騙されたかどうかは人それぞれかもしれないが、何をもって「素晴らしい花」であるかは、私にはあまりよく分からなかった(気がする/いやもう昔だから曖昧)。
で、水墨画である。
映画内で習作として描かれる「竹」が気持ちいい。ある程度の技量を身に付ければ、みな同じように描けるのかもしれないが、それが実に絵なのに「竹」の本質を突いているようで、とても気持ちが良い。逆に「春蘭」などは綺麗だが、実体の「春蘭」が思い浮かばないので、凄く形而上的に良いのかもしれないと身構えてしまう。映画の主人公同様、描かれた「春蘭」の美しさは、シンプルなのに生命力を持ち、それがユニットとして出来上がっているという面白さを感じる。映画内で三回くらい行われる水墨画のパフォーマンスについては、ああいう事も出来るのねでもあるし、そら、プロが監修してるから「大作」=「総決算」的に悪くない出来だけど、あの大きさで見れる事を前提としている為、随分、技巧をこらして仕立てている印象が強い。ちょっと別物っぽく感じる。まあでもあれは百戦錬磨でないと手を付けられないから、まだ、自分の立ち位置を捉えかねている清原果耶には荷が重そうだった。そして、あのシーンの江口洋介のかっこ良さよ。オールマイティーである事のかっこ良さよ。セリフにないのだけど江口洋介が「全ては生活の中にある」と言われたら、きっと納得してしまう。超いい役だった。その上にいる仙人みたいな三浦友和。若い頃はテニスラケットで人を撲殺するような役をやっていたのに枯れたなあ。ちゃんとお爺ちゃん然として萎んだ。まあでも、その気になれば今でもテニスラケットで撲殺とか出来るであろう。ただ、あの世界にはギリギリ、テニスラケットはあるかもしれないが、三浦友和の住まいにはなさそうだ。あそこ、生活感がない家だなあ。と言うか、江口洋介が一人で生活感を背負っている。清原果耶が下着の洗濯物を出しっぱなしで慌てるみたいなそういうくだらない場面も見たかった。三浦友和のパンツとかはどうでもいい。友和も「キャっ」とか慌てなくてもいい。
主役の横浜流星、『アキラとあきら』の御曹司アキラだった。変わるなあ、役者だなあ。それを言ったら江口洋介なんて『アキラとあきら』で鼻持ちならない奴だ。富田靖子には申し訳ないが、『アキラとあきら』の江口洋介は『線は、僕を描く』の富田靖子に相似する。「さびしんぼう」がもう「さびしんぼう」でないのである。まあ、「さびしんぼう」メイクで来られたら、ゴージャスさんみたいできっとちょっと引いたろう。しかし、ああいう役を富田靖子が演じるのは面白い。いいキャスティングである。横浜流星、『アキラとあきら』のアキラと同じ点はアキラめないこと。座布団ほしいところである。
清原果耶がいつもプンプンしてるのに可愛い。なんだろう、孫目線かな。料理人が皿に見立てて、刺身を女体に並べていくように、清原果耶の白い身体に筆を下ろしてみたい(あの意味も含む)。一度、紙の気持ちになる事も経験として大事よ。「そそそそそこは紙の気持ちじゃなくてもいい」とか動揺してもらいたい。
冒頭で「ちょっと複雑な終焉」と書いた。水墨画は書道同様、一定の形式の上に成立する。なので、その形式が正しく守られている事は重要。その上で、その旋律を序破急のように外し、自分の心を作品に出していく。それって、AIが得意そう。なのでおそらく、水墨画や書道は芸術の一分野としては衰退してしまうのではないか。常に同じ物、及び、同じ物にプラスする個性を計算で量産が出来る。まだ、そういう事に社会が気づいていないだけで、そこに気づいてしまったら、そこに「高価」は発生しえなくなるのではないか。なので、「水墨画」とは何か、のような映画が作られるのは時期的に今が最後かもしれない。この後、全ての水墨画がAIによって作られる時代が来たならば、水墨画を描く人達は、今のテーブル・マジシャン(=ちょっとした席で披露)もしくは引田天功の大脱出のような水墨画パフォーマンスみたいな所に重きを置く職業になっていくのかもしれない。
通常のエンドロール前に入る主要キャストの水墨画での紹介がかっこいい。その後、通常のエンドロールの曲がチャラくて何か余韻が破壊される気がする。ある意味、それも「ちょっと複雑な終焉」かもしれない。


【銭】
前回来館時に貰ったクーポンを使って1400円で鑑賞。
▼作品の概要はこの辺り見てください。
線は、僕を描く@映画.com
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プロフィールだ

fjk78dead

Author:fjk78dead
ふじき78
映画を見続けるダメ人間。
年間300ペースを25年くらい続けてる(2017年現在)。
一時期同人マンガ描きとして「藤木ゲロ山ゲロ衛門快治」「ゲロ」と名乗っていた。同人「鋼の百姓群」「銀の鰻(個人サークル)」所属。ミニコミ「ジャッピー」「映画バカ一代」を荒らしていた過去もあり。

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