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ふじき78の死屍累々映画日記・第二章

場末にひっそり咲く映画日記。第一章にあたる無印はライブドアブログ

『八重子のハミング』をギンレイホールで観て、介護の道は殺さぬゾンビ道★★


▲夕陽。

五つ星評価で【★★若年性アルツハイマーで記憶を失う妻を介護する12年間】
……という重い題材で、キツイ表現も多い中、それでも最後までとくとくとちゃんと見つめさせられるのは、随所に埋められた気を抜く場面であったり、高橋洋子というファニーな存在の絶妙なリアリティーのなさ(アクの弱さ)だったりにあるのだと思う。これが逆に高橋洋子が升毅を介護する映画だったらリアリティーがのしかかってきて悲惨すぎる。升さん成人用オムツ似あいそうだし、苦み走ったいい男であるだけに絶望感が半端ない。

介護はもう本当、大変そう。徐々に記憶を失っていくというのも恐ろしいが、それは序の口で、ある一定のラインを越えたら意思の疎通が出来ない何かに変わってしまっていて見ていて辛い。それはゆっくりと子供に帰っていってるという事なのだが、意思の疎通の敵わない子供は「ご飯を食べるのを嫌がったとしても」物理的に制圧できるのだけど、大人が同じように暴れられだしたら手の施しようがなくて大変だ。綺麗事ではなく、物理的に大変なのだ。

つまり、これは「人に噛みつく」という要素をなくしたゾンビをひたすら世話して過ごさなければならない勇者という物語で、加えて、勇者なのに糞尿処理をしなければいけなかったりもする。泣きながらも笑顔を絶やさない升毅が勇者だわあ。

高橋洋子演じる「母さん」は二児の母であり、元音楽教師で「おんな先生」と呼ばれていた、とても知的な人間なのである。彼女を中心に物語ればジュリアン・ムーアの『アリスのままで』になる。でも、そういう描き方はしなかった。これは被介護者の受難の話ではなく、変質してしまった伴侶を介護する夫側の視線で語られる物語だ。これが介護に対する一番一般的な視点であろう。この映画の中の人物は「母さんはきっと今こう思ってる」とか「母さん、とても幸せそう」とか根拠のない想像を口にしない。おそらく、それは気休めであり、そういう事を言ってもすぐ覆されかねない事を知っているからではないだろうか。だから逆に「母さん、笑ってる」「母さん、今、楽しそうだよ」みたいな事実は口にする。そこがリアル。相手(高橋洋子)の事は今では分からない存在になってしまったが、それでも大切にしようとする升毅の態度がバッチ正しい。升毅は高橋洋子が何故、そういう事をするのかは分からないのだと思う。分かってもしょうがないと思っているかもしれない。でも、大切にする。その姿勢が知的だ。この映画の升毅のように知的でないと、きっと「俺が、俺が、こんなにお前の事を思ってやっているのに、お前と来たら俺の事を何も分かろうとしない!」と叫びだして悲劇に邁進してしまいそうだ。ゾンビに変わってしまった伴侶に昔の面影を求めてはいけないのである。ただ、『ペコロスの母に会いに行く』くらい、相手のファンタジーを信じる事が出来るなら(信じられる素地があるという事かもしれないが)それはそれで幸せだと思う。

升毅の親友役の医者・梅沢富美男がとても情に厚いE男を演じているのだけど、そう言えば医者なのに知的には見えない。どこかで「べらんめい」とか言って諸肌出して桜吹雪とか見せそうでもあるのだ(そんな医者はいないて)。

出演の理由が「特別出演」だから、と言う事しか思い浮かばない井上順も個性の強いだけの役を好演。でも、あの役カットしても差し支えないなあ。

PS 高橋洋子が元女子プロボクサーで、
 映画の題が『八重子のサミング』だったら怖いわあ。


【銭】
ギンレイホール、会員証で入場。カップリングのもう一本は『人生フルーツ』。既鑑賞で、起きて見ていられる気持ちが全くなかったので今回はスルーした。
▼作品詳細などはこちらでいいかな
八重子のハミング@ぴあ映画生活
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八重子のハミング

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