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ふじき78の死屍累々映画日記・第二章

場末にひっそり咲く映画日記。第一章にあたる無印はライブドアブログ

『悪い奴ほどよく眠る』『どん底』新文芸坐

新文芸坐の企画「香川京子映画祭」から1プログラム。
黒澤明二本立て。どちらも遥か昔に名画座とかで1回見てる。
香川京子という女優は意識して見た事がなかった。流石に女優人生70年と言う人だからこっちが意識せずとも見てる映画はチョコチョコあるのだが、どちらかと言うと往年の作に偏る。だから、若い時の映画見るとかーいー。タイプじゃないか。きしょー。もちっと前に気づいて特集通えばよかった、というほどなかなか時間の方が空かないのではあるが。

◆『悪い奴ほどよく眠る』
五つ星評価で【★★★大体テンポが良く軽妙洒脱なのにラストが鬱なのがとても不思議な変なバランスの映画】
1960年の白黒映画。151分。長い。
重厚かと思えば軽妙、喜劇と思って見てると悲劇になってたり、作品のトーンが吹き荒れる嵐のように一定しない。
主役は三船敏郎。だが、ポマード油にでっぷり体格でかっこ良くない。やり手でいつの間にか娘婿の座に登りつめているキャラなのだが、そういう手腕があるようにもあまり見えない。
ラスト吠える加藤武が無性にかっこいい。
一目でノイローゼと分かる西村晃の表情が素晴らしい。恐怖に震える西村晃をオブジェとして部屋の隅に飾りたいくらいだ。なんかあの西村晃が人間化したムンクの「叫び」みたいだ。
志村喬の頬に物を沢山詰め込んだ居汚い食い方がなかなか最高。
映画内で三船敏郎と対峙するボスの悪役が森雅之。若い時の森雅之の恋愛映画を何本か見て、そのイメージが強くて、晩年、こういうキツイ役に出演していた事は知らなかった。まだまだっすね、俺。
そして香川京子の可愛い事。足の悪い女の子って自分の性癖的に恥ずかしながら中央値です。

香川京子、加藤武、西村晃の三人が「よっ」と声掛けたくなる快演。


◆『どん底』
五つ星評価で【★★★キチガイ・ホームドラマ】
1957年の白黒映画。125分。おもろいけどこれも長い。なんか「鬱」を積み上げた後、揺り返しの「躁」が来るのだけど、それが空騒ぎで「幸せ」の方向に進まないから疲れる。この「疲れる」状態でも見せ上げてしまう黒澤も凄いが、やっぱりちょっとくらい惰眠をむさぼるように幸せなカットを入れてくれてもいいじゃないか。何一つ「幸せ」の要素がないホームドラマ。

かなり筋金入りの群像劇で、一番最初に名前が上がってる三船敏郎も自分の出番が終わるともう糸の切れた凧がどこかに飛んでいってしまったかのように出てこない。頭から尻まで通して出てる登場人物は数人いるが、その登場人物がメインを張ってる訳ではなく、均等に吹き溜まりにくすぶってるだけなのである。

三船敏郎は『七人の侍』の菊千代が志村喬についぞ会えず生活をそのまま崩した様な野卑な役。野盗に近い。この人、尻が大きくてガタイがいいから貧乏人にはあまり向かない気がする。と言うか、黒澤組の金看板だから主役位置にいるけど、演技その物は一本調子で私は嫌い。『七人の侍』『用心棒』『椿三十郎』『赤ひげ』とかは適役だと思うけど。黒澤のアイコンだからプロデュース的に外し辛かっただろうか。
香川京子。荒れ狂ってるけど可愛いなあ。
山田五十鈴。超恐怖。恐怖が服を着て歩いてくる感じ。晩年の『必殺』くらいしか知らんかったし、顔が好みじゃないので好んでこの人の映画を見たりはしないのだけど、凄い演技が出来る人だったのだなあ。
東野英治郎。初代黄門さまは黄門さまに辿り着くまではどれ見てもクソ爺。この映画もそのルールに違わず。この人の言う事に耳を貸すいとまを与えないクソ爺っぷりは日本髄一だと思う。
左卜全。ただ一人、情け思いやりを持つが、土壇場でその全てを裏切る行動を取る。後付けで考えると新興宗教教祖のようである。まあ、この役があるから映画がすげー複雑になるのだけど。

山田五十鈴の恐怖を香川京子のキュートさが覆しきれなかった一作。


【銭】
新文芸坐の会員割引250円減の1100円。
▼作品詳細などはこちらでいいかな
悪い奴ほどよく眠る@ぴあ映画生活
どん底〈1957年〉@ぴあ映画生活
▼この記事から次の記事に初期TBとコメントを付けさせて貰ってます。お世話様です(一部TBなし)。
どん底〈1957年〉@或る日の出来事
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コメント

山田五十鈴

ほぼ忘れてるけど、すごかった気がします。
「どん底」といわれると、どうも「ずんどこ」と思い浮かぶのは、悪い癖です。

  • 2018/03/27(火) 08:00:13 |
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  • ボー #0M.lfYJ.
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Re: 山田五十鈴

こんちは、ボーさん。

> ほぼ忘れてるけど、すごかった気がします。
> 「どん底」といわれると、どうも「ずんどこ」と思い浮かぶのは、悪い癖です。

山田五十鈴はそういうヒドイ人にしか見えないのが凄かったですね。
私も「不幸のズンドコ」とかはつい言ってしまいます。

  • 2018/03/28(水) 10:01:34 |
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  • fjk78dead #-
  • [ 編集 ]

香川京子

>若い時の映画見るとかーいー。タイプじゃないか。
中年の頃がインプリントされてないからじゃないかね?
>きしょー。もちっと前に気づいて特集通えばよかった、
今回の番組は、黒沢、小津、溝口、今井、成瀬で12本観てます。
でも半分もいってない。口惜しや。
本多監督のは特集ではスルーですなぁ。

  • 2018/03/28(水) 17:27:10 |
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  • くろぱん #-
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山田五十鈴

>山田五十鈴。超恐怖。恐怖が服を着て歩いてくる感じ
わちきは「蜘蛛巣城」との2本立てで、初見でした。
先に「蜘蛛巣城」を観たから、こちらはそんなに怖いとは思わなかった。
成瀬監督で今のところ一番好きな「流れる」はこの作品と同じ年の公開なんだよな。
いろんな意味で、恐ろしい女優さんです。

  • 2018/03/28(水) 17:39:23 |
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  • くろぱん #-
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加藤武

>ラスト吠える加藤武
この場面の、最後の台詞が、バカボンのパパの決め台詞のヒントになったという話しが昔あったんだけど、今調べても出てこない。破戒僧さんも知らないかい?

  • 2018/03/28(水) 17:45:08 |
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  • くろぱん #-
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Re: 香川京子

こんちは、先輩。

> >若い時の映画見るとかーいー。タイプじゃないか。
> 中年の頃がインプリントされてないからじゃないかね?

もうほんま。お年を召して上品なお婆様がいられるなという意識しかなかったですからね。


> >きしょー。もちっと前に気づいて特集通えばよかった、
> 今回の番組は、黒沢、小津、溝口、今井、成瀬で12本観てます。
> でも半分もいってない。口惜しや。
> 本多監督のは特集ではスルーですなぁ。

私は黒澤のこの2本と加藤泰+三隅研次で4本。全然すなあ。
「赤ひげ」とか香川京子だけ見直したい(全部見るにはやっぱ長いよ)。
本多猪四郎監督のにも出てるの?

  • 2018/03/29(木) 00:48:13 |
  • URL |
  • fjk78dead #-
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Re: 山田五十鈴

こんちは、先輩。

> いろんな意味で、恐ろしい女優さんです。

セックスアピールとか感じないから、尚更怖いのか(単にセックス・アピール出してそうな若い頃のを全然見てないという話かもしれないけど)。

  • 2018/03/29(木) 00:50:42 |
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  • fjk78dead #-
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Re: 加藤武

こんちは、先輩。

> この場面の、最後の台詞が、バカボンのパパの決め台詞のヒントになったという話しが昔あったんだけど、今調べても出てこない。破戒僧さんも知らないかい?

知らんかった。「これでいいのだ△加藤武△天才バカボン」でぐぐったら出てきた。ふーん。赤塚不二夫の愛猫の名前は「菊千代」。黒澤明の大ファン、とか聞いちゃうと、そうなんだろうなあ、と。ただ、記録には残りづらい話だから、今後はもっと薄れていってしまうでしょうね。

  • 2018/03/29(木) 00:55:54 |
  • URL |
  • fjk78dead #-
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香川京子ほか

>私は黒澤のこの2本と加藤泰+三隅研次で4本。
ごめんよ。過去に観た作品のことです。今回は行ってません。破戒僧さんも過去にはそれぐらい観てないか?
ここ最近は気力、体力とも落ちてるんで、座席予約ができない上映館は、FCと下高井戸しか行きません。

>本多猪四郎監督のにも出てるの?
お姉ちゃんがちょと泣いただけで、島民共々ほだされて(騙されて)、挙げ句の果てに、遠い異国の地で野垂死ぬやつです。

>単にセックス・アピール出してそうな若い頃のを全然見てない
「浪華悲歌」の時には、子供産んでるしねぇ、そういう作品は殆ど無いと思う。

>「これでいいのだ△加藤武△天才バカボン」
よく見つけられたなぁ。さすが元SE(関係ないか)
トキワ荘関係のエピソードで読んだ記憶がある。

  • 2018/03/29(木) 20:33:35 |
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  • くろぱん #-
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Re: 香川京子ほか

こんちは、先輩。

やっぱり旧作はそんな見てないっすよ。
見ていたのは黒澤の4本に「東南角部屋二階の女」、今回「大江戸の侠児」「かげろう侍」を追加。やっと7本。小津とか成瀬とか映画的教養度が高そうな一群はほとんど手を出してないですからね。


> >「これでいいのだ△加藤武△天才バカボン」
> よく見つけられたなぁ。さすが元SE(関係ないか)
> トキワ荘関係のエピソードで読んだ記憶がある。

一応ググれば出てくるから本当じゃないかなあ。元SEはマジ関係ない。

  • 2018/03/30(金) 22:12:51 |
  • URL |
  • fjk78dead #-
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悪いやつほどよく眠る

これは、三船の復讐を動機とした政略結婚ですが、香川京子との純愛でもあって、三船の欲望の無さ、ストイックな良い男だと思います。つまり、政略結婚を純愛に昇華してしまう、美男美女という事ですね。

土建業界というと、日本の屋台骨と為って来た産業ですが、ゼネコンなどへの公共事業というのは、社会政策としては王道で、日本独特という事は無いのですが、アメリカの富裕層に期待して失敗した富のトリクルダウンに成功して来たのが、日本の土建経済だと思います。

飲食業界は競争が激しいですが、食はライフラインとなる業種ですから、大資本によるチェーン店が合理化されても、地域の食が生き残れば良いんじゃ無いでしょうかね。

  • 2020/01/23(木) 23:47:03 |
  • URL |
  • 隆 #yx.k1EMs
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Re: 悪いやつほどよく眠る

こんちは、隆さん。

> これは、三船の復讐を動機とした政略結婚ですが、香川京子との純愛でもあって、三船の欲望の無さ、ストイックな良い男だと思います。つまり、政略結婚を純愛に昇華してしまう、美男美女という事ですね。

美男美女はえーよなー。ま、あんま、三船をかっこいいとも思わんのだが。

  • 2020/01/26(日) 10:17:43 |
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  • fjk78dead #-
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