黒澤明二本立て。どちらも遥か昔に名画座とかで1回見てる。
香川京子という女優は意識して見た事がなかった。流石に女優人生70年と言う人だからこっちが意識せずとも見てる映画はチョコチョコあるのだが、どちらかと言うと往年の作に偏る。だから、若い時の映画見るとかーいー。タイプじゃないか。きしょー。もちっと前に気づいて特集通えばよかった、というほどなかなか時間の方が空かないのではあるが。
◆『悪い奴ほどよく眠る』
五つ星評価で【★★★大体テンポが良く軽妙洒脱なのにラストが鬱なのがとても不思議な変なバランスの映画】
1960年の白黒映画。151分。長い。
重厚かと思えば軽妙、喜劇と思って見てると悲劇になってたり、作品のトーンが吹き荒れる嵐のように一定しない。
主役は三船敏郎。だが、ポマード油にでっぷり体格でかっこ良くない。やり手でいつの間にか娘婿の座に登りつめているキャラなのだが、そういう手腕があるようにもあまり見えない。
ラスト吠える加藤武が無性にかっこいい。
一目でノイローゼと分かる西村晃の表情が素晴らしい。恐怖に震える西村晃をオブジェとして部屋の隅に飾りたいくらいだ。なんかあの西村晃が人間化したムンクの「叫び」みたいだ。
志村喬の頬に物を沢山詰め込んだ居汚い食い方がなかなか最高。
映画内で三船敏郎と対峙するボスの悪役が森雅之。若い時の森雅之の恋愛映画を何本か見て、そのイメージが強くて、晩年、こういうキツイ役に出演していた事は知らなかった。まだまだっすね、俺。
そして香川京子の可愛い事。足の悪い女の子って自分の性癖的に恥ずかしながら中央値です。
香川京子、加藤武、西村晃の三人が「よっ」と声掛けたくなる快演。
◆『どん底』
五つ星評価で【★★★キチガイ・ホームドラマ】
1957年の白黒映画。125分。おもろいけどこれも長い。なんか「鬱」を積み上げた後、揺り返しの「躁」が来るのだけど、それが空騒ぎで「幸せ」の方向に進まないから疲れる。この「疲れる」状態でも見せ上げてしまう黒澤も凄いが、やっぱりちょっとくらい惰眠をむさぼるように幸せなカットを入れてくれてもいいじゃないか。何一つ「幸せ」の要素がないホームドラマ。
かなり筋金入りの群像劇で、一番最初に名前が上がってる三船敏郎も自分の出番が終わるともう糸の切れた凧がどこかに飛んでいってしまったかのように出てこない。頭から尻まで通して出てる登場人物は数人いるが、その登場人物がメインを張ってる訳ではなく、均等に吹き溜まりにくすぶってるだけなのである。
三船敏郎は『七人の侍』の菊千代が志村喬についぞ会えず生活をそのまま崩した様な野卑な役。野盗に近い。この人、尻が大きくてガタイがいいから貧乏人にはあまり向かない気がする。と言うか、黒澤組の金看板だから主役位置にいるけど、演技その物は一本調子で私は嫌い。『七人の侍』『用心棒』『椿三十郎』『赤ひげ』とかは適役だと思うけど。黒澤のアイコンだからプロデュース的に外し辛かっただろうか。
香川京子。荒れ狂ってるけど可愛いなあ。
山田五十鈴。超恐怖。恐怖が服を着て歩いてくる感じ。晩年の『必殺』くらいしか知らんかったし、顔が好みじゃないので好んでこの人の映画を見たりはしないのだけど、凄い演技が出来る人だったのだなあ。
東野英治郎。初代黄門さまは黄門さまに辿り着くまではどれ見てもクソ爺。この映画もそのルールに違わず。この人の言う事に耳を貸すいとまを与えないクソ爺っぷりは日本髄一だと思う。
左卜全。ただ一人、情け思いやりを持つが、土壇場でその全てを裏切る行動を取る。後付けで考えると新興宗教教祖のようである。まあ、この役があるから映画がすげー複雑になるのだけど。
山田五十鈴の恐怖を香川京子のキュートさが覆しきれなかった一作。
【銭】
新文芸坐の会員割引250円減の1100円。
▼作品詳細などはこちらでいいかな
・悪い奴ほどよく眠る@ぴあ映画生活
・どん底〈1957年〉@ぴあ映画生活
▼この記事から次の記事に初期TBとコメントを付けさせて貰ってます。お世話様です(一部TBなし)。
・どん底〈1957年〉@或る日の出来事