
▲血の飛び散り具合がええんじゃ。
五つ星評価で【★★★★これはこれであり。】
北野武の『アウトレイジ』を見た時はかなり面白く感じたが、あれはヤクザ映画と言うより、ヤクザ映画の形式を借りたヤクザ演技オンパレードお披露目興行という特殊な映画だった。人々はその次々と打ちだされる特殊なヤクザ演技に酔いしれた。逆にそういうヤクザとして大見栄を張るシーンばかりを羅列しているのだから、話はツギハギでリアリティーのカケラもない。そういう所では勝負しないという事だろう。
あれに比べれば『孤狼の血』はずっと70年代の実録ヤクザ映画に近い。但し、主役二人にウェイトを絞ったため、脇を彩るヤクザについては理由もなく最初からいがみ合っているカキワリみたいな描き方になってしまった。要は一人一人がスビンオフで成り立つくらい人間として描かれていない。あくまでいがみ合いを成立させる為の装置として各ヤクザが配置されているように感じる。逆に言えば、そんな脇役全てが活き活きと映しとってた70年代の実録ヤクザ映画の奥深さよ。
主役は前半が役所広司、後半が松坂桃李。この二人にウェイトを絞ってる感じだから、当然、このふたりは凄くいい。
役所広司の崩れた刑事の大きな存在感、後半、主役が松坂桃李にバトンタッチするのだが、姿がいない中でも松坂桃李を媒体として映画を支配する役所広司の威力は普通に「流石」である。役所広司って何をやっても役所広司の姿形発声で外見は大きく変わらないんだけど、演じるキャラクターの人生や気持ちがその作品ごとに違って伝わってくる。今回の野郎も食えないけどいい野郎だった。
後半の主役を担う松坂桃李も若くて硬くて、役所広司と対になるような立ち位置をちゃんと掴んで演じてていい。冒頭、スーツにネクタイの凄くサラリーマン然としてまとまった感じの彼、シャツは白で、この白いシャツがヤクザと関わってるうちに、凄くリアルに血で汚されていく。後半、ネクタイは外すがシャツは白いままで、まるで彼の心が傷付いて悲鳴をあげているように血で汚れる。もう汚しようがなくドップリ血に染まってる感じの役所広司の外観とも対照的である。あと、無表情のままずんずん怒りを募らせていくのが、これもちゃんと伝わってきて、後半の目を向くとか、茫然とするとか、の表情は熱病にうなされているかのようで秀逸。
真木よう子数日前に見た『焼肉ドラゴン』であんなに清純な役だったのに、オメコ担いで生きていくみたいなギャップに驚愕。まあ、この人はどっちの極端もやれる人だからなあ。女役者バカ。そう言えば仲代達矢の無名塾をケンカ別れで出たのだから、役所広司とは同門共演になる(確か真木よう子と仲代達矢は後に和解した筈)。役所と真木の関係はSEXするような恋愛関係ではなく、全方面と背中を合わせながら戦うような共犯関係だった。この立ち位置はリアルに似てるかもしれない。おそらくこれが初共演。
江口洋介、湘爆二代目も遂にヤクザの組長にのし上がったか。こんなに怖い顔だったのかと思ういい面構えで、奥様の名前で呼ばれるのが何か微妙にマヌケ。
音尾琢真、真珠マン。こーゆー大きくも小さくもない(チンコの話ではない)役が妙に似合う。物語のキーパーソンなのだけど、知らんうちにすーっと退陣。まあ、あれか。ほじくり返されてから出てないのか。
石橋蓮司、えーなーこの金子信雄っぷり。とりあえず、この人の後を継ぐようなナマグサ爺さんって他にいない。多分、この人が演じたら演じた役は「全部、石橋蓮司の役」に仕上がっちゃうだろうから、他が思い浮かばないのかもしれない。
阿部純子、この映画でしか知らないけど、ヒロインとして上手いところ突いてくる。そして、あーそーなんですかという意外性もある。その意外性をちゃんと許容できるように役作りをしてるんじゃなかろうか。
嶋田久作、多分、江口洋介の対抗組織の組長で後ろ盾が石橋蓮司。この嶋田久作の出番が異常に薄いから、二大ヤクザ抗争が部下がちょっかい出し合うような割とライトな抗争になってしまったんじゃないか? どっちがどっちの組とか分かりづらいし。分かりづらくても見てて問題がないからいいだけど。
【銭】
4回分東映株主券2000円をチケット屋で買って4回分のうち1回(2枚目)。
▼作品詳細などはこちらでいいかな
・孤狼の血@ぴあ映画生活
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・孤狼の血@お楽しみはココからだ
・孤狼の血@ノラネコの呑んで観るシネマ