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『シリウスの伝説』シネマカリテ1(ネタバレあり)

◆『シリウスの伝説』シネマカリテ1(ネタバレあり)
五つ星評価で【★★果敢に挑戦した失敗作】

※ 文章内にネタバレ箇所を含みます。

「新宿東口映画祭」の1プログラム。
1981年、カラー、108分、初見。波多正美監督。
ブラっと見たら阿佐ヶ谷でやってる特集上映とリンクしてる訳でもないのに、脚本が桂千穂だった。サンリオの劇場用アニメ第二作。フルアニメ(1秒24コマ)、N響の劇伴演奏とディズニーを意識した作り。なので、キャラクターがディズニー調で可愛い。サンリオだから「可愛い」方向に舵を切って、小さな読者の動員も視野に入れたのだろうが、これが残念ながら失敗の呼び水になってしまっている。
エンドロールに同じ物語を劇画調(三浦健太郎氏の『ベルセルク』に画風が似てる)で描いたイラストがテロップの後ろに配置されるのだが、あれが凄い良い。あの5分の方が本編より価値が高い。あれが良い事で本編アニメ部分が失敗している事が浮き彫りになってしまった。

火の部族と水の部族が対立しながら生活している村。かつて彼等は一つの部族だったが、今は仲違いにより忌み嫌いあって暮らしている。偶然出会った水の部族の王子シリウスと火の部族の姫マルタは愛しあうようになるが、それぞれの親に知られ、出会う事ができないよう幽閉されてしまう。水の部族の子供と火の部族の子供の両方が仲良く暮らせる星への旅立ちが90年に一回月蝕の時に開かれるのだが、彼等は幽閉されてその旅立ちに間に合わない。シリウスは息絶え、マルタはその傍から離れない。二人の愛を認めた部族は神の力により、二人を星の世界に旅立たせる。

メロウな話の筋はまあいいとして、問題は説得力の薄さだ。物語の根幹はシリウスとマルタが互いに互いを愛して、愛の為には命を投げうっても良いというメロドラマにあるのだが、シリウスとマルタを可愛らしいキャラクターに設定した為に、成熟した恋愛をするように見えなくなってしまった。ぱっと見、二人とも小学生高学年くらいの見栄えである。そして、二人が出会って、仲良くなるシーンも、善悪を抜きにしてあまり性的ではない(と言うより性的に見えない)。幼稚園児同士が自然に仲良くなっているようである。この関係性で相手の為に部族を捨ててもいい、死んでもいいという固執は説得力が薄い。どちらかというと言語による恋愛ではなく、身体接触による恋愛なのだが、子供キャラでそれをやると意図してやらない限り「淫靡」にならないし、単に手を結んでるだけで「激しい恋愛」と設定されても伝わらないだろう。
又、メロドラマとして成立させる為の物語設定が大袈裟な割に、それがそうである必然性に欠ける。太古、仲が良かった火の部族と水の部族はいいにして、風の神や、それら全てを統べる大神など、謎の存在でしかなく、何も説明されない。火の部族と水の部族がもともと仲が良かったのに、仲が悪くなった後で一緒に住む事が出来ないという事や、それを捻じ曲げて一緒に住む事が出来る星の設定も都合が良すぎる。ともかく、キャラクターが苦しむようにいろいろ作られてはいるが、そのルールがその世界に存在する事がクリエイターの気分任せみたいに見えてしまうのだ。

これはディズニー調のフルアニメで作る事によって他の国内のリミテッドアニメと違う事に商品としての特性を持たせようとした弊害ではないか。物語を一番語るのに適したスタイルで描かれていないのが最初のボタンの掛け違いだろう。逆に、あまり動きに関係の無い火の王、水の王は魅力的に映える。滑らかな動きよりも直線的な動きの火の兵も魅力的。どちらかと言うと滑らかな動きに活路を見出したい水の町の人々はリミテッド・アニメでいいような動きをしている。

エンドロールの絵画のように、主人公二人を会った途端に恋に落ちるのがおかしくないくらい美麗に描き、その美麗さを守る為に極力動かない『哀しみのベラドンナ』みたいなアニメートにしても良かったと思う(エロ表現はあんなに強くしなくてもいい)。エンドロールの絵柄、キャラクターだと、観客たちの現実と乖離するので、都合のいい設定も違う世界ならしょうがないと納得できそうでもある。

ちびキャラの声を榊原郁恵が当ててるが、上手いし、可愛い。ヤンチャな男の子の声が向くっつか、逆にアニメに出るような女の子の声は合わないかもしれん。っつか、声の特質がお婆ちゃん役で出てる「ゼンカイジャー」の今と基本、変わってないのも驚くべき事だ(元から喉が強いのか、ちゃんとボイトレとかやってるのか?)。若い時は榊原郁恵が若くなくなるなんて思ってなかったなあ(それでも若いけど)。


【銭】
番組価格1100円。
▼作品詳細などはこちらでいいかな
シリウスの伝説@ぴあ映画生活
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『シリウスの伝説』(1981)

水の国の王子シリウスと火の国を統べる女王の娘マルタ、この出会ってはならない二人の悲恋を『ロミオとジュリエット』に準えて描いたファンタジー・アニメーションで、3年もの歳月を費やし、ディズニーでさえ敬遠したという火と水の表現に果敢に挑戦した、サンリオ創立20周年の記念大作。8万枚もの動画を全て手描きしたフルアニメーションという手法も、ディズニーへの対抗意識の表れだろう。これまでに紹介した1981...

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Author:fjk78dead
ふじき78
映画を見続けるダメ人間。
年間300ペースを25年くらい続けてる(2017年現在)。
一時期同人マンガ描きとして「藤木ゲロ山ゲロ衛門快治」「ゲロ」と名乗っていた。同人「鋼の百姓群」「銀の鰻(個人サークル)」所属。ミニコミ「ジャッピー」「映画バカ一代」を荒らしていた過去もあり。

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