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『Arc アーク』丸の内ピカデリー1

◆『Arc アーク』丸の内ピカデリー1

▲対芸能マスコミっぽい記者会見。

五つ星評価で【★★★多分、私が見たかったのはこの部分ではない】
映画前半部分で不老不死の基盤となる死体に対するプラスティネーション施術が施されるが、あれの趣味が良くない。あれ、深作欣二版『黒蜥蜴』で「美しい人の姿形が醜く変容してしまうのがイヤ」という理由で剥製にされてしまうのと何ら変わらないのだが、『Arc アーク』での、その美の造形は厚化粧のようで好きになれない。それは単に「嗜好」の問題かもしれないが、死んだ時に生前と変わらないように行う「死に化粧」とは異なり、その人個人の人生を粉飾する「後付けの装飾」に私には見えてしまった。私だったら、あんな形で死体をどこかに飾られるのは「おいおい勘弁してくれよ」と思う。「いけないルージュ・マジック」かよ、みたいな。

なんか色々ピンと来なかった。

芳根京子と小林薫の関係性などは面白いと思ったが、まあ、それはそれで「そういうケース」という「個の話」であろう。私は、どちらかと言うと傍流的に語られる「不老不死」の導入により、世界がどう変わっていくかの方に対する興味の方が強かったのだ。
その施術を持つ者と持たざる者との間に断絶が出来ると言う考えは面白い。そして、それが一般化・大衆化される事により、社会に浸透していき、それと同時に自殺率が高まると言うのも「ふーん」と思った。
いや、死なないだろ。老いに対する心配がなくなったとして、人々はやる事がなくなった、退屈であるという理由でそうそう自死を選ばないと思う。日本では高齢者の自殺率は決して低くないが、その理由は身体機能の衰えや病気などによるものなので、この不老不死(プラス不病)の世界観の中では自殺率は下がる筈だ。老いなくなった人達は何をするのか? 恋やセックス、今の若者文化の継続・延長だろうか。今は経済的に子供など持てない夫婦が多くいて少子高齢化が進んでいるが、高齢の部分がそのまま経済活動を行う者として残るなら、子供の数も抑制が出来ずに、逆に問題になるほど増えていくのではないか。今、政権中枢にいる爺様たちには、施術が不可能な年齢などで自然にどいてもらうが、その次の施術が施された世代で代議士になった者は100年も200年も政治かとして居座る事になる。それは単純にこの国の政治が年功序列で、昔からいる者に権力が集まる可能性が強いからだ。
どちらかと言うと、芳根京子が生活している離れ島のコミュニティみたいな優しい人達の描写より、日本や世界の中枢で、最高齢の人達が為政者として固定してしまうのではないか、みたいな社会の枠組みの話の方が私は見たかった。

私達は寿命を持っているので、寿命を持たない人達のメンタリティは分からない、という意見がある。でも、類推くらいならしてもいいだろう。私達は一定年齢で次の世代にバトンタッチをする「草」みたいな生き物である。寿命がなくなるという事は「樹」のような生き物に変わると言う事だろう。そんなに大きな変化だろうか。身体は一定以上に大きくならないが、どんな年を取っても花粉は飛ばす(セックスはする)。問題は樹が実を付けて、その実を腐らせて土壌を豊かにするような、循環規則を環境的に維持できなそうという事ではないか。自殺がブームになってくれたりしないと、人口増で食い扶持ばかり増えていってしまう。国民総背番号制で、国民数に上限を設け、誰かが亡くなったら出産許可が下りるみたいになるか。もしくは手塚治虫が『海のトリトン』での不死の生き物ポセイドン族で描いたように、先祖はただ深い井戸に潜って生態活動を止めるようにして生きるか。それでも、飯は食うから誰かがその飯を作らないといけない。やはり、社会の枠組みがどう変わるかの方が面白そうである。

あと、動物は上限となる心拍数があり、その心拍数を打った数で寿命を迎えるというのもある。テロメアの欠落防止を図る事で理屈的には200~300年の寿命を得るかもしれない。でも、臓器が持たない。身体内の臓器はそこまで長期使用を計画して作られていない。老いないし、死なないが、臓器不全が多くなるなら自殺者は徐々に増えていくのか。

いろいろな事を考えるキッカケとしては面白いけど、話はそんなに好みではない。というところかな。


【銭】
松竹の会員6回有料入場ポイントを使って無料鑑賞。
▼作品詳細などはこちらでいいかな
Arc アーク@ぴあ映画生活
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▼作品詳細などはこちらでいいかな
Arc アーク@ノラネコの呑んで観るシネマ
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Arc アーク

17歳で出産し家出したリナは、19歳でエターニティ社のエマと出会う。エマは「プラスティネーション(遺体から水分を取り除き合成樹脂などを注入して保存する技術)」の仕事をしており、リナは彼女の後継者となった。 一方、エマの弟で天才科学者の天音は、姉と対立しながらその技術を発展させた「「不老不死」の研究を進めていく…。 ≪人類初、永遠の命を得た女性の物語≫

Arc アーク・・・・・評価額1700円

彼女は永遠の生の先に、何を見たのか。 人類で初めて不老不死の体を得た女性の、17歳から135歳までを描く一代記。 必滅の存在である人間が、死する運命から解放された時、一体何が起こるのか。 原作は、2011年の傑作短編「紙の動物園」で、ヒューゴー賞、ネビュラ賞、世界幻想文学大賞の三冠を制し、大ベストセラーとなった「三体」シリーズの英訳でも知られる、米国の人気作家 ケン・リュウ。 彼の短編集「...

コメント

非公開コメント

プラスティネーションの部分は原作だともっとエグいんで、かなり表現悩んだんだろうなあと思います。
昔やってた人体展とかに近かったからなあ。
ポージングのほうに力点を置いたのは、レイテングを考えてもギリギリな気がする。

芳根京子さんが

鞭を振るってナチと闘う映画じゃないのか。
あれ、『K」じゃない、「C」だった。

「事故で片端になっても再生するの」とか疑問がどんどん出てきたんだけど、「原作端折ったのか」と思い、思考停止しました。

ところで「でぶ」の状態で不老不死の処置を始めると、自死まで「でぶ」のままなのかねぇ。
それは、ものすごく嫌だ。

風吹ジュンさんはおいしい役だったな。
まあ、わちきが「蘇る金狼」の頃の「なまちち」にモえたことも、バイアス掛かりまくりの一因ですけどね。

Re: タイトルなし

こんちは、ノラネコさん。

> プラスティネーションの部分は原作だともっとエグいんで、かなり表現悩んだんだろうなあと思います。
> 昔やってた人体展とかに近かったからなあ。
> ポージングのほうに力点を置いたのは、レイテングを考えてもギリギリな気がする。

原作パラパラ立ち読みしてきました。しかし、家族のメモリアルとして残しておくより、美術品として残しておく方が「プラスティネーション」に情が入らない分、話として冷静で論理的な気がする。単に人体の構造によるボディーの模倣であったプラスティネションに、付与価値を加える事で影響を受ける対象が死者から心を持つ生者に変わる事の皮肉がある気がする。基本的に同じような事をしているのに(映画では意味が違うのだが)、死者を永らえるだけなら、ただ永らえさせけばいいのに、生者はそうはいかない、みたいな。

Re: 芳根京子さんが

こんちは、先輩。

> 鞭を振るってナチと闘う映画じゃないのか。
> あれ、『K」じゃない、「C」だった。

「聖櫃」ね。分かりづらいわ!



> 「事故で片端になっても再生するの」とか疑問がどんどん出てきたんだけど、「原作端折ったのか」と思い、思考停止しました。
>
> ところで「でぶ」の状態で不老不死の処置を始めると、自死まで「でぶ」のままなのかねぇ。
> それは、ものすごく嫌だ。

後天的な物は後天的に変更しないなら現状のままでしょう。だから若年性のアルツハイマーとか起こってしまうと首から下が元気な分、悲劇が大きかったりするかもしれない。



>
> 風吹ジュンさんはおいしい役だったな。
> まあ、わちきが「蘇る金狼」の頃の「なまちち」にモえたことも、バイアス掛かりまくりの一因ですけどね。
プロフィールだ

fjk78dead

Author:fjk78dead
ふじき78
映画を見続けるダメ人間。
年間300ペースを25年くらい続けてる(2017年現在)。
一時期同人マンガ描きとして「藤木ゲロ山ゲロ衛門快治」「ゲロ」と名乗っていた。同人「鋼の百姓群」「銀の鰻(個人サークル)」所属。ミニコミ「ジャッピー」「映画バカ一代」を荒らしていた過去もあり。

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