◆『梅切らぬバカ』ギンレイホール

▲髪を切られると見せかけて、錬成陣を手で組み、大気から馬を作りだそうとしている塚地武雅。
五つ星評価で【★★★適切だけどもう少し外れてもよい】
ツイッターでの最初の感想(↓)
ちょうどいい具合に意思の疎通を欠く塚地武雅の演技に舌を巻きながら元気バカ徳井優も愉快。真相が表層に表れないのは正しい処世術かもしれないが溜飲は下げたかった。
映画としては、真相を明らかにして、主人公の保身を謀ってやる方が全くもって簡単だし、観客の膨れ上がった義侠心みたいな物とも折り合いが着くのだが、そうすると誰か別の者が犠牲の槍玉に上がってしまう。そういう犠牲の移譲みたいな事を敢えてやらなかったのはとても偉いし、正しいのだが、振りあげた拳の納めどころがない観客は非常に戸惑ってしまった。やはりあれか。真相がバレる。いじめになる。自殺する。自殺者の近親者が馬場に火を付け、焼けた馬の肉を自治会長とかに無理やり食わすとかまでやらないとダメか。
加賀まりこと塚地武雅は盤石。寅さんみたいにこれで何本も作れそうだけど、「恋」みたいな真ん中を貫くシリーズのコアがないので、作れば作るだけ同じ映画になってしまいそう。毎回、お隣さんを変えるか?
徳井優の元気バカ楽しい。
渡辺いっけいってだいたい大丈夫だけど、何か一ついつも欠けている役な感じ。今回もそう。
林家正蔵つーか、こぶ平と、広岡由里子がいる社会が「世間」なんだと思う。あの二人、もしくはどっちかが映画にいると、そこから地平線まで「ざー」っと「普通」が広がっていく感じがする。その観点から言うと、あんな何の変哲もない市街地みたいなところに高島礼子がいるのはおかしいのだけど、あれは馬という異物とキャラを打ち消し合ってるから大丈夫なのだろう。いざとなったら、あの馬に乗ってレスキューでも何でもする。そういうシーンがないだけ。林家正蔵や広岡由里子は馬とまぐわったりしないが、高島礼子なら馬とまぐわってもいい。もちろん映画に必要があるなら。高島礼子には「必然性があるなら馬とまぐわいます」とか大きな声で言ってほしい。
◆『TOVE トーベ』ギンレイホール

▲やすいヤニ蒸かすのかっけー。
五つ星評価で【★★東京ベーコン、いや、違う】
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ムーミン作者の伝記映画。申し訳ないが主演女優の顔が嫌い。目が菜葉菜に似てるのはいいけど口元が市原悦子っぽい。それは怖いだろ。ダンス上手すぎる。職も愛も一番を逃す話は辛い。/映画を作ってる人がトーベ・ヤンソンの業績に対してリスペクトを感じてないと思う。だから、イラっとする。
そりゃあ、トーベ・ヤンソンの人生は本人にとって楽しくなかったかもしれないし、辛かったかもしれないけど、辛い辛いうまく行かない経済で自立しても満たされない愛がない辛いばかりで、観客が彼女を好きになるような要素が薄い。彼女の辛さに対して映画製作者側は突き放した態度を取っていて、何かただ単に芸術的に都合のいい「辛い」を押し付けてるだけなんだと思う。同情してやれよ。そして、観客が彼女と一緒に協調できるように彼女の「辛い」を丁寧に観客に提示してやれよ。「ムーミン」が殊更に画面に出ないのは格調なんだろうか。作品について悩むシーンが多いのにムーミンも、ムーミン以外の画業も正面きって前面に出てこない。ドキュメンタリーじゃないから、そこは演技でという気持ちがあるのかもしれないが、それは私のような浅い観客にとっては分かりづらく優しくない演出である。
◆『ほんとうのピノッキオ』ギンレイホール

▲ほんとうらしいっすよ。
五つ星評価で【★★★ベニーニが追っかけてくる】
ツイッターでの最初の感想(↓)
ダークファンタジーと宣伝で言ってるのだが、寺山修司っぽいアングラが本当。そして又ベニーニなのか。ピノキオ、ゼペットとやって次もう一本作るなら妖精さんだな。ロバトラウマな怖さ。妖精さんが何故あんなに甘いのか分からない。
とりあえず前に作られた皺くちゃベニーニ版『ピノッキオ』が本当じゃなくてよかった。今回は暗く重いピノキオ。別にもっと明るくて短くてもいい。しかし、昔も今もピノキオが人間の子供になりさえすれば幸せでハッピーエンドみたいであるが、貧困は貧困のままだし、騙す大人は周囲に多いし、油断すると、人の子でもロバになる。何一つハッピーではない。それなのに、演出上ハッピーエンドで終わる事が一番の恐怖なのかもしれない。
いや、一番の恐怖はベニーニがまた、出てきた事かな。
◆『ライダーズ・オブ・ジャスティス』ギンレイホール

▲真ん中で立つマッツの立ち方が本当に無駄がなくって軍人みたい。
五つ星評価で【★★★★主筋に無関係の自転車少女にきゅん】
ツイッターでの最初の感想(↓)
流石北欧の至宝マッツ・ミケルセン。彼の従者になる三人の問題を抱える善人もキュート。人生はみな辛い。ラストはかなり甘口だが許したい。自転車を欲しがってた女の子がキュート。主人公の娘がちょっと憎らしげなのはいいキャスティング。
ミケルセンのサイコみたいに厳しい父親が問題を抱える三人の善人と付きあう中で復讐にのめり込みながらも、娘との関係を修復していく、ちょっと千鳥足みたいなフラフラした展開が逆に目新しい。ラスト近くのどんでん返しも見事。データは嘘を付かない。恣意的な物の見方が物事の正しさを狂わせる。日本政府かよ。
◆『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』ギンレイホール

▲一生に一度河内のおっちゃんになったら言いたい言葉「ねえちゃん、小振りだけどぷりぷりやないけ」
五つ星評価で【★★あらまあ】
ツイッターでの最初の感想(↓)
パロマちゃんをもう一回見たかったのでギンレイで「ノー・タイム・トウ・ダイ」。アクションはいいけど、それを繋ぐ物語がテンポ悪くて説得力がない。重低音バンバンの007のテーマの編曲はとても良い。
アクションシーンはたいそう素晴らしい。が、後半、敵の基地に行く辺りはもう長いし疲れてるしでアクションにも集中できない。それに007のアクションってアクションの目的が分からずに行き当たりばったりに右往左往している物が多い気がする。映画の中でキャラクターがアクションをこなすのは通常何かしらのミッションをクリアする為である。困難なミッションを身体を張って成功するか失敗するかに観客は目を奪われる。それなのに、007のアクションは何をやればミッション成功なのかが分かりづらい。例えば、パロマちゃん初登場のアクションだが、このミッションは幽閉されている科学者を救いだし、自分達の陣地に連れ込めば成功。なのだが、幽閉されている筈の科学者が幽閉されていず、主人公の敵組織をガンガン壊滅して行く。そこに別陣営が科学者を奪いに来て奪われるグチャグチャもいい所である。その乱戦で、007は最後に美味しい所を浚う。それはミッションのクリアではなく、単に成果を分捕る世渡り上手なのでは? なんか、アクションの質は高いけど、そのアクションを支える感情ラインや観客との親和性みたいなのが今の007では全体的におかしい気がする。主人公は難関に挑む。それはいいけど、ただ勝てばいい訳でなく、過程も必要だし、過程が長すぎても行かん。デリケートやなあ。
【銭】
会員証で入場。『TOVE トーベ』と『ほんとうのピノッキオ』、『ライダーズ・オブ・ジャスティス』と『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』はカップリング。『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』はパロマちゃんを見たくて再見した。『梅切らぬバカ』のカップリング『老後の資金がありません!』は2回目そんなに見る気がそそらなくてパス。
▼作品の概要はこの辺り見てください。
・梅切らぬバカ@映画.com
・TOVE トーベ@映画.com
・ほんとうのピノッキオ@映画.com
・ライダーズ・オブ・ジャスティス@映画.com
・007/ノー・タイム・トゥ・ダイ@映画.com
▼次の記事に初期TBとコメントを付けさせて貰ってます。お世話様です(一部TBなし)。
・ほんとうのピノッキオ@SGA屋物語紹介所
・ライダーズ・オブ・ジャスティス@銀幕大帝
・ライダーズ・オブ・ジャスティス@ここなつ映画レビュー
▼関連記事。
・007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(1回目)@死屍累々映画日記・第二章